ランドリー総研
コインランドリー開業・経営の総合研究所
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【特集】災害対応型ランドリー最前線 ——断水の避難所で見た、洗濯物の“順番待ち”
見過ごされてきた"洗濯支援"の現在地。全国に広がる災害対応型ランドリーの動きと、その最前線に立つ一社の挑戦
兵庫県養父市の運送会社・山本運輸が生んだ移動式ランドリー「COMOREBI」(写真提供:山本運輸)
大規模災害が起きると、水・食料・毛布といった支援物資は比較的早く届く。しかし「洗濯」という生活の一部は、驚くほど見過ごされてきた。避難所の片隅に置かれた数台の洗濯機の前に、洗濯物が積み上げられ、順番を待つ――そんな光景は、実は珍しくない。この課題に、業界はどう向き合ってきたのか。そして今、被災地へ自ら移動式ランドリーを届けるという答えを出した経営者がいる。兵庫県養父市・山本運輸の山本洋介社長だ。本特集では、2026年7月28日に発生した「令和8年熊本地震」を受け、災害とランドリーを取り巻く構造的な課題と業界全体の動きを整理したうえで、その最前線の一例として山本運輸の挑戦を取材した。
「洗えない」が、静かに被災者を追い詰めている
災害報道では、水・食料・毛布・簡易トイレといった支援物資の様子が繰り返し伝えられる。一方で「洗濯」が語られることは少ない。しかし避難生活が数日、数週間と続くにつれ、衣類を洗えないことは衛生面だけでなく、被災者の“日常感覚”を静かに奪っていく。
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で最大震度7を観測した。熊本県が公表した8月24日8時時点の資料では、県内65か所の避難所に2,709人が身を寄せている。発災から時間がたっても、洗濯を含む生活支援の必要性は続いている。
「洗濯の支援は、誰がしているのだろう」――そう疑問に思ったのが、運送会社を営む山本洋介社長だった。本特集ではまず、災害とランドリーをめぐる構造的な課題と業界の動きを整理し、そのうえで山本運輸の取り組みを一つの実例として紹介する。
広がる「災害対応型ランドリー」――その最前線と、埋まらない溝
断水・停電が長期化すると、給水・給電の復旧を待つ間、洗濯という行為そのものが不可能になる。避難所生活では洗濯物を干す場所の確保も課題になり、特に下着など人目を気にする洗濯物の扱いに困る被災者は少なくない。「洗濯」は、水・食料・トイレに比べて災害対応の優先順位から抜け落ちやすいテーマだと言える。
一方で、この課題に業界として向き合う動きは、実はここ数年で着実に広がっている。「災害対応型ランドリー」には、大きく分けて2つのアプローチがある。
| 据え置き型 | 移動式(例:COMOREBI) | |
|---|---|---|
| 強み | 平時から地域に根づいた“面”の防災拠点 | 被災地・避難所へピンポイントで駆けつける機動力 |
| 主な設備 | 非常用発電機、炊き出しセット等 | 洗濯乾燥機一式を搭載したコンテナ・トレーラー |
| 展開スピード | 店舗数に応じて全国に分散配置済み | 1台単位で必要な場所へ移動 |
| 課題 | 被災地に店舗がなければ機能しない | 自前の給水ができない/台数を増やしにくい |
01据え置き型――既存店舗を“防災拠点”に変える
全国展開するコインランドリーチェーンの一部では、店舗そのものを災害対応化する取り組みがすでに進んでいる。きっかけとなったのは、過去の台風による大規模停電時に、たまたま停電を免れた店舗へ遠方から住民が洗濯に殺到したという経験だった。そこから「災害時、コインランドリーが地域の役に立てるのではないか」という発想が生まれ、複数日分のガスを貯槽できる設備やポータブル発電機を備え、停電時でも携帯電話の充電や炊き出しに対応できる店舗を増やしてきたチェーンもある。
こうした取り組みは国も注目しており、内閣官房がまとめた国土強靱化の民間取組事例集でも、コインランドリー業界による災害対応の工夫が紹介されている。ある大手チェーンでは、展開する店舗のうち4割超をすでに「災害対応型」として運用し、自治体との災害協定も30件以上を締結しているという。
02移動式――被災地へ“出向く”ランドリー
一方、山本運輸の「COMOREBI」のように、車両で被災地へ直接移動できるタイプもある。据え置き型が「店舗のある地域」を面で支えるのに対し、移動式は店舗のない被災地・避難所へピンポイントで駆けつけられるのが強みだ。コンテナ型・トレーラー型の設備は、設置条件に応じた手続きやインフラ接続を確認したうえで、基礎工事を伴う常設店舗より迅速に設置できる場合がある。業務用ランドリー機器メーカー各社でも、こうした可搬型の設備開発が進んでいる。
03制度面の後押しと、残る課題
コインランドリー事業者が災害対応設備を導入する際には、設備や事業計画が要件を満たせば、各種補助制度を活用できる場合がある。山本運輸がCOMOREBI導入時に事業再構築補助金を活用したのも、こうした流れの一例だ。
また、災害対応車両を平時から登録・データベース化する国の「災害対応車両登録制度」が2025年6月に始まり、その検索システムとしてD-TRACEが運用されている。洗濯サービスを提供するランドリーカー、ランドリートレーラー、ランドリーコンテナも登録対象だ。ただし、制度は始まったばかりで、発災後に自治体のニーズと車両を結びつけ、派遣までの時間をどう短縮するかという運用面の課題は残る。山本社長も、実際の派遣までには「あと数日は効率化できる余地がある」と話す。
据え置き型が広がる一方で、移動式はまだ台数も限られ、“点”としての支援にとどまっているのが現状だ。次章では、この移動式アプローチの最前線として、山本運輸の挑戦を詳しく見ていく。
最前線を歩く一社――兵庫県養父市・山本運輸の挑戦
原点は、大学2年で経験した阪神・淡路大震災
山本社長が阪神・淡路大震災を経験したのは、大学2年生のときだった。その後、家業である運送会社を継ぎ、事業の方向性を検討する年次を迎えたころ、当時の被災経験が「震災に向けて何かをすべきだ」という使命感として蘇る。
警察に相談し、市役所に駆け込み、「車両をボランティアで出すので使ってほしい」と自ら掛け合った。養父市からは「支援物資を集めるので、それを運んでほしい」というリクエストが届いた。
使命感だけを頼りに、東日本大震災の被災地へ
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、4月2日には現地入りしていたという。当時はまだ災害車両の登録制度も整っておらず、「行政を通して民間企業を派遣する」という仕組み自体が存在しなかった。
2016年、熊本の避難所で見た「3台の洗濯機」と長い行列
支援物資を届け、自衛隊に引き渡す。その瞬間に「お疲れ様です。もう帰ってもいいですよ」と言われ、拍子抜けした経験があったという。まだ支援できることがあるはずなのに――そう感じていた矢先、2016年の熊本地震の被災地で目にしたのが、避難所の片隅に置かれたわずか3台ほどの洗濯機と、その前に積まれた順番待ちの洗濯物だった。
「運ぶ」から「洗う」へ――一つの出会いから生まれたCOMOREBI
運送会社としてトラックの運転・移動には慣れており、人材もいる。そこに、コインランドリーを現地へ持ち込む構想を持つ企業がある、と当時の養父市長から紹介を受けたのが転機になった。2022年9月、コンテナ型設備の製作を手がける企業との出会いから、構想は一気に具体化していく。事業再構築補助金を活用する決断も、出会いから1〜2か月というスピードで下された。
2023年6月中旬に着工したCOMOREBIは、同年8月4日に完成。お披露目会からわずか1週間後には、地元・養父市で発生した断水被害の支援に投入されることになる。


朝6時から並ぶ“洗濯の行列”、1日80回転の現場
令和8年熊本地震を受け、COMOREBIは8月12日午前9時に養父市を出発。翌13日に宇城市小川防災拠点センターへ到着し、14日午前8時からの利用開始に向けて準備が進められた。
現地に入った当初は、COMOREBIの存在自体があまり知られておらず、混乱もあったという。しかし運用が浸透するにつれ、朝8時の稼働開始に合わせて、早い人は6時頃から洗濯物を持って列を作るようになった。
洗濯物の量が多いほど、1台あたりの稼働時間は長くなる。1日のキャパシティはおよそ50人・80回転ほど。被災地入りしてから11日間は、現地での運用調整も必要だったことから、稼働時間を8時から18時までとしていた。「今日はここまでです」と断らざるを得ない場面は心苦しいというが、それでも文句を言う利用者はほとんどおらず、「明日また洗濯できるのが楽しみ」と声をかけられることも多かったという。
現地入りから12日目となる8月25日からは、被災者の方により安らぎ、リフレッシュしていただきたいとの思いを込め、24時間営業へ変更した。
現地では養父市の職員計4名が運用にあたり、人員体制は無理のない範囲で調整しているとのことだ。

「洗う」だけでなく、“人が集まる場所”になった
もともとは洗濯支援のためにコンテナを持ち込んだが、結果的にできたのは「コミュニティが生まれる場所」だったと山本社長は振り返る。機能としての洗濯だけでなく、心のリフレッシュや安らぎの時間を提供できていることが、この事業をやってよかったと感じる理由だという。

平時は道の駅、有事は避難所へ
COMOREBIは災害時だけの設備ではない。平時は道の駅やキャンプ場などに設置され、コインランドリーとして稼働している。利用にあたっては、レンタル型の費用負担モデルが用意されている。
- レンタル型:1日単位の利用料に加え、現地の水道・電気の簡易工事・移動費用が発生する形。
自前で水すら引けない――現場に残る壁
課題も残っている。COMOREBIは自前で給水することができず、給水は自治体や関係機関の協力に頼らざるを得ない。熊本の現場では給水車の支援を受けて運用されているという。「川の水をくみ上げて浄水し、利用できないか」という構想もあるが、実現には至っていない。
また、ランドリー設備自体の取り回しが大きく、2台目・3台目を増やすことも簡単ではないという。
「メディアが忘れた瞬間、支援は止まる」――山本社長が伝えたいこと
「災害はいつ起こるか分からない。だからこそ、平時から企業や自治体にこの取り組みの重要性を知ってもらうことが必要です」と山本社長は語る。全国に“仲間”を増やし、知識やノウハウを共有しながら、災害から日本を支えていきたいという構想も持っている。
もう一つ、山本社長が強調するのが「報道が続くこと」の大切さだ。
なお、災害派遣にともなう費用には、被災自治体からの要請や災害救助法の適用状況などに応じ、公費負担の対象となる仕組みがある。今回の支援について山本社長は、「本業(運送業)が滞るくらいで、金銭面の心配はそれほどありません」と笑いながら話す。
据え置き型と移動式は、対立するものではなく補完関係にある。据え置き型が全国に“面”で防災拠点を広げ、移動式がその“点”を被災地でつなぐ。今後、この両輪が噛み合うことで、災害時の洗濯支援はより手厚くなっていくのではないか。
「洗う」という当たり前を、途切れさせないために
阪神・淡路大震災の記憶から始まり、東日本大震災での無我夢中の初動、そして2016年の熊本地震で見た「洗濯の順番待ち」――山本社長の歩みは、災害支援の“隙間”を一つずつ埋めてきた記録でもある。
同時に本特集で見てきたように、災害対応型ランドリーは、もはや一部の企業だけの取り組みではない。全国チェーンによる“据え置き型”の防災拠点化と、COMOREBIのような“移動式”の機動力――アプローチは違えど、「洗濯」という生活の基盤を災害時にも途切れさせないという狙いは共通している。
ランドリー総研は、「災害対応」が今後、コインランドリー業界において店舗や事業者が地域から選ばれる理由の一つになり得ると考える。平時に利用される場所が、非常時には地域を支える場所になる。開業を検討する人も、既存店舗を運営する人も、自店が災害時に何を提供できるのかを一度考えてみてほしい。
「COMOREBIの取り組みをもっと知りたい」「災害時の協定について相談したい」という自治体・事業者の方は、下記より直接お問い合わせいただきたい。
COMOREBIの設置・災害協定について相談する
移動式ランドリーの平時利用、災害時の派遣、自治体・事業者との連携については、COMOREBI公式サイトから山本運輸へ直接お問い合わせください。
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被害・避難情報:熊本県「令和8年熊本地震に係る被害情報」
派遣日程:COMOREBI「宇城市小川防災拠点センターへ」
制度情報:内閣府「災害対応車両登録制度」